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【秘密】「船中八策」の美味しさの秘密

前夜

近年人気の純米酒や純米吟醸酒などを飲まれ、「日本酒度はプラスなのに、やたら甘いのはなぜ?」と疑問に思われたことはないでしょうか?これまでは、日本酒度がプラスの酒は辛口、マイナスの酒は甘口と言われていました。一般的な「司牡丹」商品は日本酒度+5前後ですから辛口、「司牡丹・船中八策」は日本酒度+8前後ですから超辛口、という具合です。しかし、近年はその考え方が全く通用しなくなってきています。それが、「グルコース濃度」の関係なのです。近年流行りの純米酒や純米吟醸酒などは、この「グルコース濃度」が高いものが多く、実は全国のメーカーの間でそういうタイプの酒造りは、もはや数年前から常識となっているのです。

まず、日本酒度は比重であって、本当の甘さや辛さの指標ではありません。これがまず前提です。そしてお米の「でんぷん」は、液化酵素と糖化酵素の働きにより以下のように変化していきます。

「でんぷん」→「デキストリン」→「オリゴ糖」→「ブドウ糖」

お酒に残っている糖分の組成によって、人が感じる甘みは違います。「デキストリン」は、「でんぷん」に近いため甘くありません。「オリゴ糖」はほのかな甘さ。最も甘いのは「ブドウ糖(グルコース)」なのです。つまり、日本酒度がいくらプラスでも、残糖の構成がブドウ糖が多ければ甘い酒になる、ということなのです。このような糖化率の高い酒、「グルコース濃度」が高い酒が最近の流行りだというわけなのです。 糖化率を高くするには、伝統的な「突きハゼ」造りで麹の糖化酵素を高める手法がありますが、近年の流れではそれでも糖化不足です。代表的なその他の方法は、以下の3つでしょう。

①高グルコ菌という麹を使う。(生まれつき糖化酵素を大量生産する麹菌。ただし他にもいろんな酵素を出すため、酒の味のバランスが崩れたりするという副作用があり得る。搾ってから早めの処理も必要。)

②酵素剤を入れる。(糖化酵素そのものを入れる、最も簡単な方法。麹の力が少なくて済むため、酒が綺麗にはなるが全部似てきてしまい個性がなくなる。搾ってから早めの処理も必要。)

③生酒の状態で引っ張る。(糖化酵素は火入れすると破壊されるが、生酒では生き続けるため、生酒の状態で日数を引っ張れば、いつかは残糖のほとんどがグルコースになる。ただしあまり生期間が長いと生老ねがつく。)

日本酒業界の近年のトレンドは、この高グルコ菌や酵素剤を使った「グルコース濃度」の高い甘い酒となっているのです。特に、全国新酒鑑評会金賞受賞酒は、既に平成22酒造 年度頃から、「グルコース濃度」の平均で2.0以上であり、年々グルコース濃度は高まり、さらに金賞受賞酒は甘い酒だらけとなっています。ちなみに、「グルコース濃度」が2.0以 上である酒の金賞受賞比率は、平成22酒造年度に50%だったものが、平成27酒造年度には85%と跳ね上がっているのです。これは、甘みが欠点をマスキングするためで、「グルコ ース濃度」の高い酒は欠点が指摘されにくいため金賞を獲りやすくなり、「グルコース濃度」の低い酒は欠点が指摘されやすいため金賞が獲りにくいというのが現状であるからと言わ れています。さらに、「グルコース濃度」が高い酒は、高カプロン酸エチル酵母使用による若干の苦味もマスキングでき、その上、飲み込まずに多数を利き酒する審査会では、格段 に有利であるとも言われているのです。(グルコの高い酒の後に、グルコの低い酒が並ぶと、「身薄い」「粗い」「味ノリ悪い」等の低い評価になりがち。)

そして市販酒でも、純米酒より純米吟醸酒が、純米吟醸酒より純米大吟醸酒が、より高い「グルコース濃度」となっているのが現状と言えます。世界最大の市販日本酒コンテストと言われる「SAKE COMPETITION 2014」の予審通過酒は、純米酒の「グルコース濃度」の平均は1.44、純米吟醸酒の平均は1.75、純米大吟醸酒の平均は1.99となっており、これが翌年の「SAKE COMPETITION 2015」の予審通過酒では、純米酒の「グルコース濃度」の平均は1.72、純米吟醸酒の平均は2.07、純米大吟醸酒の平均は2.62という数値になっているのです。


●「SAKE COMPETITION 2014」と「2015」のグルコース濃度平均の比較(予審通過酒)
 ・純米酒部門・・・「2014」:1.44%→「2015」:1.72%
 ・純米吟醸部門・・・「2014」:1.75%→「2015」:2.07%
 ・純米大吟醸部門・・・「2014」:1.99%→「2015」:2.62%

 

 

特に若者には人気がありますが、しかし一方で、量が飲めない、1杯で終わってしまう、料理が進まない、等の欠点も一部で問題視されているのです。一般的に「旨い酒」と一くくりで語られますが、実は「旨い酒」には2通りあります。すなわち、「一口飲んで旨い酒」と「一口では物足りないが、食が美味しくなり、ついつい杯が進む酒」です。しかし、きき酒審査の場合は、少量を口に含んで吐き出し、当然料理は食べずに審査しますから、後者の「旨い酒」を評価することは困難です。そのため、「SAKE COMPETITION 2016」では、あるゆるコンテストに先駆けて、世界で初めて「グルコース濃度別審査」を採用しました。つまり、グルコース濃度2.0%未満と2.0%以上の2区分に分けて、きき酒審査を行うというものです。これにより、以下の通りの結果となり、年々全国的に異常に甘い酒だらけとなる市販酒同質化の傾向に、一定の歯止めをかけることができたのではないかと言われています。

「SAKE COMPE 2014」「2015」と「2016」のグルコ濃度平均の比較(予審通過酒)
 ・純米酒部門・・・「2014」:1.44%→「2015」:1.72%→「2016」:1.53%
 ・純米吟醸部門・・・「2014」:1.75%→「2015」:2.07%→「2016」:2.07%
 ・純米大吟醸部門・・・「2014」:1.99%→「2015」:2.62%→「2016」:2.31%

そのお陰もあり、「SAKE COMPE 2016」において司牡丹は、「純米酒部門」において「船中八策・ひやおろし」(超辛口・純米原酒)が「シルバー」を受賞、「純米吟醸部門」において「一蕾」(純米吟醸酒)が「シルバー」を受賞、「純米大吟醸部門」においては「司牡丹・槽掛け雫酒」(純米大吟醸原酒)が「ゴールド」の2位受賞、「吟醸・大吟醸部門」においては「司牡丹・黒金屋」(全国新酒鑑評会金賞受賞・大吟醸原酒)が「ゴールド」の5位受賞という結果で、主要4部門において上位入賞という快挙を成し遂げたのです。

しかし、まだまだ辛口酒には厳しい現実があります。

たとえば、「SAKE COMPE 2016」の「純米大吟醸部門」上位入賞酒のグルコース濃度は、以下の通りとなっているのです。

<1位>2.40

<2位>1.27

<3位>3.64

<4位>3.33

<5位>4.04

<6位>2.01

<7位>3.09


つまり「純米大吟醸部門」においては、2位の「司牡丹・槽掛け雫酒」以外の上位入賞酒は、全て「グルコース濃度」の高い甘い酒であったということなのです。これは裏を返せば、「司 牡丹・槽掛け雫酒」は、「辛口の純米大吟醸では世界一うまい!」と言えるということではないでしょうか。

 

さて、そんな中で司牡丹は、食材の素材そのものの美味しさを下から押し上げ、引き立てるような土佐の高知伝統の淡麗辛口を標榜しています。「一口飲んで旨い酒」ではなく、「一口では物足りないが、食が美味しくなり、ついつい杯が進む酒」です。そのため、元々「グルコース濃度」は低く、純米酒で1.0~1.2前後で、「船中八策」のような超辛口タイプでは0.9~1.0前後しかありません。純米吟醸酒や純米大吟醸酒でも1.2~1.4程度。鑑評会出品用の本醸造大吟醸酒の1本だけは、金賞を受賞するためにやむなく若干の高グルコ菌を使い、「グルコース濃度」高めに造ってはいますが、それでも2.0前後で、平均よりはかなり低いのです。つまり司牡丹は、最近の甘口志向に安易に迎合することなく辛口の王道を歩んでいるということです。

しかし、単に昔ながらの淡麗辛口の酒質に安住していては、周囲の酒蔵の品質のレベルアップに置いていかれることになります。特に「船中八策」のように「グルコース濃度」が極めて低い超辛口タイプの場合、単純に超辛口を造るのは簡単ですが、それではただ薄っ辛いだけの酒になってしまいがちです。純米酒ならではの淡麗な中に潜む旨みや膨らみと、超辛口のキレの良さを、いかにハイレベルでバランスを取るかという、絶妙なバランスが命になります。そしてさらに、モロミの発酵温度や経過、上槽後から火入れまでの間の保管温度や火入れのタイミング、その後の保管温度等々を毎年毎年研究し微調整しながら、その品質をほんの少しずつでも毎年毎年ブラッシュアップさせ続けているのです。そんな目立たない地道な行いの絶え間ない積み重ねこそが、「ついつい杯が進む旨い酒」の代表であり続けられる唯一の秘訣であると考えています。そして、そんな辛口酒のみが、流行りの甘口酒ファンにも「辛口なのに美味しい!」と言わせられるものと確信しています。

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